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2009年4月7日火曜日

『統合失調症者への社会・心理的アプローチ』4/22見本出来です

 
4月3日の記事に引き続き、新刊のご案内をいたします。
今日ご紹介するのは、中村正利さんの『やってみよう! 統合失調症者への社会・心理的アプローチ』です。



本書は、副題にもあるがごとく、「ソーシャルワーク・福祉の力でどこまで回復できるか」ということをテーマに援助活動を展開してきた中村さんによる、統合失調症者への援助論です。
統合失調症というと、やはり入院、薬物療法というのがメインの治療法です。入院は一昔前ですと何十年という期間も珍しくはなかったのでしょうが、近年ですと陽性症状がとれてきたところで、長くとも半年くらいで退院・社会復帰というのがパターンでしょう。しかし完全に治るということはなかなか難しく、陰性症状のほうはなかなか消えない。症状のほうは薬である程度はコントロールできても、ちょっとしたことで再燃したり、再入院したりします。
社会・心理的アプローチ――簡単に言えば、人と人のかかわりを作っていく援助のことなのですが――は、作業療法やデイケア活動、カウンセリング、仲間づくり、グループ・ミーティングなどいろいろとありますが、「生活」なり「生きてゆく」ということを通して、統合失調症の方にリジリエンスを取り戻させるもので、薬物療法と両輪であるべきものです。
中村さんは作業所やグループホームなどを通して、そうした活動をされており、本書にもさまざまな実践が報告されています。何かというと、かなり絶望的な感じさえする統合失調症ですが、できることをやるだけでも、かなり回復が見込めるのだな、と読んでいて強く思います。
目次はこんな感じです。

第1章 統合失調症とは何か――ソーシャルワークからみる精神障害
 1 統合失調症とは
 2 精神障害の特殊性

第2章 援助の導入
 1 社会資源
 2 障害者自立支援法について

第3章 社会・心理的援助
 1 援助の開始
 2 回復期の援助

第4章 事例で描く社会・心理的アプローチ
 1 スタッフの資質について
 2 陽性症状と陰性症状
 3 統合失調症者の問題を社会的文脈で見る
 4 直面化

第5章 精神病院入院に変わる地域システムの模索――脱病院化・過渡的施設(通過施設)と社会・心理的アプローチ
 1 ソテリアハウス
 2 イタリアの精神保健改革
 3 コミュニティケア
 4 まとめ──私たちには何ができるか


本書はもともと、精神保健福祉士の方に向けて「教科書に書いていないこと」をまとめようと意図したものです。精神保健福祉士向けの本というと、(まあ、多くの専門職向けの本は少なからずそうなのですが)試験対策テキストみたいなものが多く、もう少し幅のある本ができないものかなあ、と考えていました。そこで『グループミィーティングのメソッド』でお世話になった中村さんと話しているうちに、作ってみようということになったものです。出来上がったものを読むと、精神保健福祉だけでなく、精神科臨床、精神科福祉にコミットしている方々に、ぜひとも読んでほしい内容に仕上がりました。

先日、クラブハウス町田に伺い、最終的な打ち合わせをしたとき、中村さんからビデオを見せてもらいました。
詳しくは知らないのですが、作業所対抗(なのか?)のバレーボール大会があり、中村さん率いるクラブハウス町田は、強豪ぞろいの東京都大会で見事優勝し、全国大会に進出したんだそうです。見せてもらったのは、事実上の決勝戦であった前年覇者のチームとの一戦のビデオです。
一人女子を入れなければならないなどのルールがあるようですが、6人制のバレーで、フォーメンションも変わり、相手チームの穴を狙うなど作戦もあるようで、ブロックや上からのサーブ(変化球も打つらしい)などの、かなり本格的な試合でした。レシーブ、トス、アタックと、ちゃらいサークルがレクリエーションでやるバレーなんかよりはずっと本格的です。中村さんはビデオを見ながら、「この彼はかなり重篤だったんだけど、よくここまで回復したなあ」などと解説をしてくれます。もちろん、そうは見えません。
そして、接戦の末、勝ちを収めたのですが、印象に残ったのは、皆さんの元気な姿です。そういう場所だからということもあるかもしれません。ふだんは精神障害の方との接点がない私が見慣れているわけではないので、そう見えただけなのかもしれません。でも、彼らは元気よく戦い、励ましあい、声を掛けあっていました。そして最後の得点を決め、勝ったとき、喜んでいました。そこにいたのは、ふつうの若者たちでした。

これが別にエビデンスだというつもりはないのですが、少なくとも、この本は、そうした人間的な実践をもとに書かれたものだということがわかります。
デイケアや作業所などのスタッフの方はもちろん、臨床や人間の可能性を信じている方にはぜひ読んでほしい一冊です。

もし、本書を読んでみたい、ブログやHPなどで紹介したいという方がおられましたら、ぜひ、ご一報ください。小社HPに詳しい説明がありますが、無料謹呈をしておりますので、ぜひご応募いただければと思います。

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