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2010年10月8日金曜日

下坂幸三先生の本を読んでいる。わりにマジメに,深夜に数ページずつ。

 
ちょっと前に,仲のいい臨床家たちと飲んでいて,日本の古典的でなおかつ必読の,臨床心理学および精神医学の本はどれだろう,というような話になった。著作名であげるのはなかなか難しいが,「これぞ」という著者をあげることは可能かもしれない。などと話が展開していき,河合隼雄先生だの,中井久夫先生だの,土居健郎先生だの,霜山徳爾先生だのの名前があがっていった。そして,勝手に,十傑を選んだりし,ハシ袋の裏に書いたりした。メンバーは,酔っていたからか,なぜか11人になっているが,錚々たる面々である。

そのなかに,下坂先生の名前が出ていた。摂食障害を研究し,摂食障害の専門治療施設を作った(というべきなのか,患者さんはほとんど摂食障害だったという),すぐれた精神科医である。
私が以前勤めていた会社では,下坂先生の本をいくつも出していて,インターネットが広がる前,よく患者の母親から「うちの娘が拒食症で……下坂クリニックに行きたいのですが,連絡先を教えてください」というような電話がかかってきた。(ネットが広がると,この手の問い合わせはほとんどなくなった。)
いろんな問い合わせがあったが,この手のものだと,下坂クリニックの所在地を尋ねる電話が一番多かったように思う。
(でも,「104で調べてください」と答えることになっていた。下坂先生から,そうしてほしいと連絡があったらしい。)

下坂先生は亡くなり,名著の誉れ高い,

アノレクシア・ネルヴォーザ論考アノレクシア・ネルヴォーザ論考
下坂 幸三

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は,まだ生きている。
ほかにも,いい本はいろいろとある。

下坂先生以外にも,先に名の挙がった面々のなかでは,亡くなった方も多い。河合先生も,土居先生も,霜山先生も亡くなった。

現在の出版情勢から言うと,死んでしまうと,出版物は売れなくなり,どんどん絶版にされていく方向性にある。多くの筆者は,生きているからこそ,売れるのであって,死んでしまうと,おしまいになってしまう。死んでもなお,売れ続けるような筆者はなかなかいない。生きていれば,その著者のまわりに,新しい人たちが集うことで,新たに本が売れるのだが,亡くなってしまうと,新たな掘り起こしができないから,じゃないかと勝手に類推している。
文庫化されない専門家の本は,やはりある時点で売上が止まってしまう。文庫などのリーズナブルな形で,新たな読者にわたっていかなければ,古典として生き残ることは難しいのかもしれない。電子出版は,その点,ありがたい存在だが,こちらから検索しないと出てこない電子出版物は,文庫やふつうの書籍に比べて,リーズナブルだからといって,売れるわけではない。

たとえば,20年後,河合隼雄先生は,書籍のなかでどう生きるのだろうか? 50年後は? 100年後は?
個人的な感覚としては,100年後に,河合先生の存在が知られていなくても仕方がないと思うが,50年くらいだと,ちょっと寂しいという気がする。でも,レマルクの本なんか,まーったく見なくなったことを思えば,30年でも御の字なのかもしれない。

下坂先生の本は,どうなのだろう。豊かな医学的知識と,臨床の英知がぎゅうっと詰まった本が多いから,ぜひとも生きながらえてほしい。なかなか,それに代わる本はないと思う。
 

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