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2010年11月15日月曜日

岩壁・質的研究本を読む!

 


かの天才クライマー長谷川恒男には,『岩壁よ おはよう』というエッセイ集がある。牧歌的なタイトルとは掛け離れた,荒々しく猛々しい内容であるが,紹介したいのは,岩壁は岩壁でも,岩壁茂先生の最新の著作である。関係ない前フリ,すいません。

はじめて学ぶ臨床心理学の質的研究―方法とプロセスはじめて学ぶ臨床心理学の質的研究―方法とプロセス
岩壁 茂

岩崎学術出版社 2010-10
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この最新刊を1冊,ご恵送いただいたので拝読したのだが,これがすごい本であった……。なにはともあれ,質的研究で卒論・修論を書こうという人は必読である。これを片手に,ガイドブックのようにして,研究をまずはスタートしてほしい。書かれている内容の深さ,広さ,バックボーンにある引用文献などなど,どれをとっても一級品であり,これ以上の入門書はいまのところ存在しないだろう。臨床心理学の学生はもちろん,学際領域(その他心理学や社会学,教育学,看護学などなど)の方も買って損はない。

とはいえ,平均的な学生向きというほど,なまやさしいものではない。いや,実際問題として,心理学専攻で,質的研究で論文を書こうというのは,なかなかしんどいと思う。この本すら読みとおせないというものであれば,素直に質的研究は諦め,量的な研究に舵を切り替えるべきであろう。量的研究には,妥当性の得やすさという意味で,とても楽であるし,面倒もない。いや,もちろん,データを収集するのは大変だけれども。そして,ある程度,量的研究に慣れてからのほうが,質的研究はとっつきやすいような気もする。個人的には,質的研究は,酸いも甘いもわかってくる「おとな」の研究じゃないかと思っている。本書は,そういう意味で,リトマス試験紙のようなものでもある。ともあれ,研究を進める上での座右の銘である。

と,ひどく偉そうなことを言ってしまうが。

実はこっそりと告白するが,遠見書房主は,20年近く前の学生時代,卒論は統計研究で誤魔化したクチである。当時,パソコンはまだDOSで,因子分析をするのに,PC98を動かして,半日とかかかったものである…。研究室のパソコンが数台しかなく,出遅れると,皆が帰ったあとの終電間際に計算を仕掛けて,そのまま帰り,翌朝チェックする,というようなことをしていたのを思い出す。泣けてきた。
そのころ,質的研究というのは概念上あるだけで,よいモデルがなかった。語られるのは,要するに,文学上の次元で,現在のようにさまざまあるモデルの蓋然性は語られていなかったように思う。ま,そもそも統計研究以外の卒論は許されたなかったんですけれどね。


ま,オッサンの昔語りはどうでもいいのですが,この本,オススメです。とてもいい本です。論文執筆を企てている皆様にもぜひごらんいただきたいです。

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